『BLUE BLOOD』と『JEALOUSY』。
これらの、あまりにも日本の音楽の歴史の中で対照的な作品よ、、、
今の中高生にも絶大な人気を誇るXのこの名盤たち。そしてこの天と地の音質の違い。
前者は音が悪いランキング1位。後者は音がいいランキング1位!wwwww
で、ふと、なぜ『BLUE BLOOD』があれほどまでに音が悪いのか。かなり久しぶりにちゃんと20年ぶりくらいに分析的に聴いてみてわかった。。。。
それは、
ドラムレコーディングで使用したブース(部屋)が最悪だった。ということだったのだ!!!よ
CDの音が悪いというと、まだデジタルレコーディング技術が熟成してなかったとか、マスタリングが悪かったとか、色々言われますがそんな生易しいことではない!(笑)
『BLUE BLOOD』のレコーディングにおいてメインに使われたのは『CBS SONY信濃町スタジオ』である。諸情報をもとにするとオーケストラパート以外はすべて信濃町だ。
そう僕が駆け出しのとき地獄の日々を過ごした思い出したくもないスタジオ….
そこには3つのレコーディングスタジオがあり、おそらく使われたのは1stであろう。
当時1stと2stには『アイソレーションブース』と呼ばれた(一般的な意味のそれとは違い、固有名詞のように使われた)天井が高く鳴き龍(フラッタエコー)のする部屋があった。吸音処理がされていなく天井が高い割に面積は狭いので、上下方向の響きが極端に増幅され、一般的には禁忌とされるフラッタエコーが特徴的に鳴るブースだった。(何につかうんだろ、この最低な響きの部屋は、、、と入りたてのペーペーの僕すら思ったほどの響き)
※フラッタエコーとは『パン』と1発叩いてもびょ~~~~~んみたいな感じに響く、いわば位相感のめちゃくちゃ悪いフィードバック値の多いショートディレイの固まりのような短いリバーヴのこと。
で、今回スタジオのモニターで CDをじっくり聞いてみて、『BLUE BLOOD』の主要曲のドラムはこの『アイソレーションブース』で録られていたのだと確信した。
つまり「音が悪くて当たり前」だったのだ。
例えば4曲目の『EASY FIGHT RAMBLING』のイントロのドラムを聴いてみてほしい。なんか変なリバーブというかディレイがかかってるでしょ?
これがまさに『アイソレーションブース』の特徴的なフラッターエコー的な音響特性。
この曲のこの部分のミックスではかなりアンビのマイクが上がってるので非常にわかりやすい。
他にも『BLUE BLOOD』や『ウィーケン(ケンケン)』でもこの性質の響きを大きく感じることが出来る。また、フラッターエコーの特徴である「位相感の汚さ」は『BLUE BLOOD』のハイハットがチュルチュルいってる事でも分かる。はじめ「なにこれ。マスターはMD???wwww」とか思ったほどだもん。
この、分離も悪いわ、残響多いわしかも位相もおかしいわ、しかもコンソールから離れているわ(『アイソレーションブース』はコンソールルームとは真逆の位置であったのでケーブル長が何十メートルにもなるから音痩せがパない)….。悪い条件のオンパレード。
それにしても何故このような決定的なミスを当時のエンジニアが犯したのだろうか?
あくまでも以下は想像だけど、
「ラウドな響きで録るのがドラムレコーディングの基本」と、当時まだ思っていたか(時代的にありうる)、ヨシキ本人がこっちの響きが気持ちいいもーん!と、思ったか(あくまでも叩いていて)、のどちらかだと思うの。
日本の音楽史上、かつてそれまでには無かった音数とスピードのドラムスタイル。エンジニアもどういう風に録ればいいかわからなかったのか。
または、えー?こっちで録るの?無理無理!!!
と、エンジニアが思ってても若いゲイリーさんが強行したか、のどっちかとしか思えないのだ。
『BLUE BLOOD』全体を聴くと『アイソレーションブース』ではない位置で録った質感のものも含まれているので、途中でこれはヤバいとセッティング場所を変えた可能性は大いにある。
では、何故音が悪いならセッティング場所を変更した後の音を全ての曲で使わなかったのか?
それは『演奏の鮮度と精度』の事情ではなかろうか。
それと『もうなにがなんだかわからなくなってた』
かもしれないという、この二点が想像される。
まず、『演奏の鮮度と精度』の問題。
このアルバムのレコーディングはハードすぎてエンジニアがぶっ倒れたというのは有名な話しであるけど、
『BLUE BLOOD』にしても『X』にしても何テイクも何テイクも苦労して録った中、一番いい演奏だったのがその『アイソレーションブース』で録ったものだったのではないか?ということ。
二つ目の『なにがなんだかわからなく』、、、は、あまりにレコーディングがハードすぎてエンジニアもメンバーもスタッフも体力や集中力の限界で、皆どんな音が鳴ってるかわからなくなり音が悪いことに気がつかなかった、または、わかっていてもスルーしていた(mixでなんとかなるやろ…)のかも知れないということ。
音が悪くてもいい演奏が獲れてることの方が優先するのは当然だし、ましてやヨシキが「このテイク!」と言ったら覆せない現場の様子も安易に想像できる。
音が悪い悪いと言っても、『エンドレスレイン』や『UNFINISHED』あたりはそこまで音が悪くない。つまり、それらの曲はドラムの音数が多くないってことの証明でもあるのですが。
『アイソレーションブース』のその特徴的な響きの音は、ディレイの塊に近い特徴的なリヴァーブの「枝感」が程よく溶けるようなぐらいの音数のアレンジにおいては威力を発揮するんです。
例えば同じ信濃町の『アイソレーションブース』で録られた聖飢魔Ⅱの『FIGHT FOR YOUR RIGHT』。
https://music.apple.com/jp/album/fight-for-your-right/1081764212?i=1081764220
このぐらいの音数になりますと結果的に往時の素晴らしい生ドラムサウンドが聴けます。
Xほどのスピードと音数のドラムには7~80年代の設計思想のレコーディングスタジオでは『前時代すぎてダメ』だったんすね。。。
こういったルームサウンドは80年代の流行りであって、パワーステーション(バンドであり、スタジオでもある)に代表されるようなこういったリヴァーブ感は1970~80年代のスタジオ設計の王道でもあったとも言えます。(信ソ(1978年竣工)はあまりにフラッター傾向が強すぎるけど )
例えば、1980年のピーターガブリエルの作品で有名になった「ゲートリヴァーブ」もこの音色感を機械的にさらに押し出したものといえるでしょう。まあつまり、こういう響きはシンプルなアレンジでないと生きなかったってことっす。
時に1989年。日本の街じゅうを震撼させた『BLUE BLOOD』が発売されたのが。
たしかにこの手の響きの部屋でドラムを録るというのは当時の ”日本では” 未だスタンダードな手法だったのかもしれないけど、あそこまでの音数とスピードのドラムに対して日本のレコーディングエンジニアは全くついていけなかった、というのは間違いのないことかもしれないでしょう。(その2年後の『JEALOUSY』の別次元に進化したXのサウンド(海外で海外のエンジニアによる)たるや。。。)
で、ドラムの音が悪いばかりにほかのギターや歌、ミックスまで悪く聴こえてしまった「好例いや悪例」の『BLUE BLOOD』。(ドラムをましに聞かせるために他の楽器の音をショボくせざるをえないという悪循環も発生)
しかし、どんなに音がアレであっても、その音楽的魅力や価値は決して失われることはないんですねぇ。
こういった若き日のヨシキやXというバンドの苦労や苦悩、スタッフを含めた『音楽を作るということの過酷さや美しさそして素晴らしさ』を伝えるエピソードや、聴く人に色々なストーリーを想起させ、想像力を掻き立てるその音質含めた『作品としての質』。それが今でもこの作品が愛される最大の理由ではないでしょうか。
音楽そのものの魅力だけでなく、そういった事まで含めて「作品の魅力」となるという。
これこそがドラムレコーディング、いやレコーディングというアートの本来のあるべき理想の姿であると、僕は思うのです。
最高に素晴らしい至高の録音芸術、それが『BLUE BLOOD』なんですね