EDo-mae Recordings レコーディングスタジオ

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エックス (X)の『JEALUOSY』は、なぜあんなに音が良く、名盤なのか。

江戸前ブログ史上最高viewを記録した「エックスのBLUE BLOODは何故あんなに音が悪く、名盤なのか」に引き続きまして(笑)、、、。


日本の音楽史上最も音がいいと言われるおなじくエックスの「JEALOUSY」。

ではなんでその「JEALOUSY」は音がいいのか?を今回はお送りしましょう。


中学生のころですかね、発売日に買った「JEALOUSY」のCD。「BLUE BLOOD」があまりに酷い音だったのである意味期待してなかったのですがその音のクリアさ、ダイナミックさと躍動感にかなりのショックを受けた記憶があります。


何故ひとは「JEALOUSY」をいい音に感じるのか。


一個一個分析してみましょう。


まず、

1.音に一切のオーディオ的な歪み成分がない。

音が非常にクリアです。歪みは必ずしも音にとって悪いモノではないのですが、前作「BLUE BLOOD」の濁り感や汚さは不要な歪みによる部分も大きかった。しかし「JEALOUSY」のレコーディングではこの、特に”ロック”では大切な要素である「歪み」を一切排除しています。←ここは最後の方に触れます。

(この歪みとは、ギターの歪み•ディストーションとは全く意味の違うものです)


次のポイントは

2.「音のダイナミクスがめちゃくちゃ広い」。

どういうことかと言うとつまり、全ての音が潰れてないんです。これは昨今のコンプだのマキシマイザーだのの未だに潰しまくった音に慣れている現代の中高生にも衝撃を与えています。強い音は強く、弱い音は弱く。しかしポップスやメタルミュージックに大切な「音の均一性」はしっかり担保されています。そう、この「音の均一性」がグルーヴや音質には大切。「揃ってる感・作品感」ですね。しかしこのアルバムでは「音を揃えてるのに潰してはいない」のです。


もう一つは

3.「周波数レンジがとても広い」。

下は30Hzあたりから、上はCDではスペック上22kHzまでですが、しっかり満遍なく出ています。近頃日本のミックスの低域の足りなさが有名アーティストやミュージシャンによってクローズアップされていますが、30年前にして完璧にこのポイントをクリアしていたのです。

しかも豊富な低域は高域にさらなる輝きを聴感上与える働きをするんですね。 同じように高域が出たミックスでも低域が足りないと単にうるさい高音になってしまい兼ねません。



以上「JEALOUSY」の音がいいとされる三つの聴感上の特徴ですが、では何故そういう音に仕上がっているんでしょうか?


最大のポイントは「オーバーロードさせても歪まないマイクプリを使用している」こと!そして「コンプレッサー」を使用していないけど、マイクプリをオーバーロードさせて音を圧縮している。これが音の最大の秘密な気がします。


ややこしいですが、(笑)

つまり、「オーバーロードさせて音の均一性を得ているのに、歪んでいない」んですね!


エンジニアリングを全く知らない方にもわかりやすく語りますと、

マイクから出てくる電気信号は小さすぎてそのまま録音できないのです。そこでマイクプリアンプという機材にマイクを繋いで音を増幅させるのですが、ツマミを上げてマイクからの電気信号を過度に増幅させようとすると歪むのです。ようするに音が「割れる」わけですね。

しかし、多くのマイクプリは「その割れる一歩手前の程よい歪み」に個性を持たせ、それを最大の売りにしています。適正に設計された程よい歪みは音を時として美しくするんですね。また、そのサウンドの違いが個性とされ時に神聖化されレコーディング現場で重用される。


特に「ニーブ」というメーカーのマイクプリはシルキーなサウンドといわれますし、「SSL」にはニーブとは違った美しい歪み感がありそれぞれにファンがいます。他にも様々なメーカーがありそれぞれサウンドに個性があります。


ところが、オーバーロードさせても歪み感を感じさせないマイクプリというのがあるんです。それはapi。このマイクプリはアメリカンな太いロッンロールサウンドなどど言われていますが、しっかり音をほどよく圧縮してくれる(コンプレッサーより自然に音の粒を揃えてくれる)のになかなか歪まないという最高の特性を持っています。


しかも高域も低域も非常に伸びていて物凄くハイファイな特性なんですね。


もちろんニーブやSSLも歪ませない使い方をしますが、そのかわり圧縮感は少なくなる、またはなくなります。そこが最大のapiとの違い。


ここはもちろん想像でしかないのですが、この「JEALOUSY」はapiで録られたモノではないかと推測されるのです。(「JEALOUSY」のレコーディングでメインに使用されたL.A.の当時のコンプレックススタジオの機材の情報はネットでは見つけられませんでした。)

しっかりある程度圧縮を施された、均一性を持った音なのに歪み感もコンプ感も一切ないドラムサウンド。それはもうapiではないかと思うのです。


「BLUE BLOOD」の音の悪かった理由は、先のブログに書いた「部屋の問題」に加えニーブのマイクプリやコンプレッサーにより付加された「歪み感」がエックスのドラムサウンド、バンドサウンドに向かなかった。というのもあったと推測されます。(信濃町スタジオは全てのスタジオがニーブの卓であったし、時代的に外付けのマイクプリを使ったとは考えにくい、なぜなら「卓」全盛の時代でしたから)


加え、特にドラムサウンドがいいのは当時日本より何歩も先に行っていた「ドラムテック•チューナー」の存在。「(BLUE BLOOD」でもおすぎさんという日本の元祖ドラムチューナーさんがついておりましたが。)この「JEALOUSY」のテックさんは後述のエンジニアが連れてきたとか。。。


それとおそらく、僕はYOSHIKIさんの生音を聞いたことがないのですが、

「BLUE BLOOD」のレコーディングで苦労した分おそらく「JEALOUSY」までの間に奏法をかなり無理のないように鍛え直したのではないでしょうか。つまりただパワーに任せて叩きまくるのではなく、適度な音量かつ1番いい音で太鼓が鳴るスタイルへと。。。。


何より音がいいのは本人の音がいいからというのが最大の前提になりますから。


シンバルもスネアも全く歪んでないんですね。おそらくYOSHIKIのサウンドはすぐ目の前で聞いてもパワフルでありながらとても心地よく痛くない音のはずです。


最高のセッティングとチューニングで最高の楽器を最高のプレイで奏でる。

当たり前のことが成立していたと断言出来るでしょう。


それと、少し戻りますが、何故「JEALOUSY」のエンジニアはそのようにコンプも使わず最高にファイファイな音でレコーディングするというアプローチを取れたのでしょう?


それは、「JEALOUSY」のレコーディングエンジニア•ミキシングエンジニアの「リッチー•ブリーン」はジャズやフュージョン系のサウンドを主に手掛けるエンジニアだった、ということです。

自然にダイナミックでHi-Fiにという、全くロックやメタルのエンジニアとは違うアプローチをそもそもしていた可能性があります。


このエンジニアを探して来たのは亡きTAIJIといいます。ロックやメタルだけでなく幅広く音楽に精通していた彼らしい逸話ではないでしょうか。


で、


最後にもう一つこの完璧なサウンドが完璧な状態でCDになった奇跡。


それはマスタリングの素晴らしさもあると思います!

マスタリングは信濃町スタジオの巨匠田中三一さんですが、もうレジェンド中のレジェンド。デジタル処理によるマキシマイズの技法が産まれる前の真の巨匠ですね。

しかも、この「JEALOUSY」のリリースされた時期がまたよかった。


いわゆる「音圧戦争」にまだ突入する前の1番いい時代だったのですね。


「サイレンジェラシー」を聴いて見て下さい。サビ前のストリングスのフレーズがバッと前に出てきます。そしてなによりラストのストリングスのクレッシェンド!!うおぉぉおって感じで大きくなって曲が終わります。これは今のひたすら圧縮するマスタリングでは不可能な音楽表現。(ちなみにリマスター版ではここの部分がかなり犠牲になってました。。。。音圧あげちゃった分。悲し)


さて総括しますと、

「api」(と思われる)による歪みを加えることのない、しかもコンプを使用することなく圧縮感(均一感)を付加したレコーディングとミックス。マスター段またはマスタリング段においての「本当に薄く薄く掛けたトータルコンプ」による絶妙なサウンドコントロール。これが秘密か?!で、いつも言ってますが、ドラムの音がよければ他の楽器も全部いい音に出来るんです。。。。。


『レコーディングエンジニアの技術とセンス、そして絶妙な時代であったが故の最高のマスタリング』


そしてなによりも「BLUE BLOOD」で失敗したサウンドを二度と繰り返したくないというYOSHIKIをはじめとしたバンドメンバーの気合いと情熱が(あくまで想像だけど)「JEALOUSY」をエックスのもう一つの金字塔にさせたのは、言うまでもありません。


「いつまでも聞ける最高の音楽を目指しています」YOSHIKI


これは30年経って完全に実現され、証明されています。


ああ、コンプよさようなら。

※江戸前ではこの夏apiを8ch導入いたします。お楽しみに。